御 注 意
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公式名称『千鶴』で統一されています
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「おい平助……!そっちはどうだ?」
「大丈夫!新八っつぁん、そっちは?」
「こっちも大丈夫だ。……総司っ!お前もちゃんと見張れよ!!」
「一君にバレないようにするなんて、無駄だと思うけどね?」
夜も更けた頃、怪しい人影が屯所の庭に蠢く。
「だったらお前は行かなきゃいいだろっ!?調子悪いんならそのまま大人しく寝てろよ!」
毎度の如く、重箱の隅を楊枝でほじくるような沖田の発言に原田は怒気を荒げる。
今日は土方が大坂へ出張に出払っている為、これは好機とばかりに島原へ飲み明かしに行こうと、原田が永倉を誘った。
その二人の会話を盗み聞いていた藤堂も「左之さんと新八っつぁんばっかりずりーよっ!俺も行く!!」と駄々をごね出したので、仕方なく原田は藤堂も一緒に連れて行く事に……。
一方の沖田は、体の具合があまり芳しくないらしく早めの就寝に就いていたが、原田達の企みを持ち前の勘で察知し「一君にバラしちゃおうかなー…」と原田達をけしかける。
土方程ではないが、沖田も酒にはあまり強くない。
色事にもまるで無関心な為、島原へ行ったところで沖田が楽しめる率はほとんど皆無に等しいのだ。
「いいじゃん左之さん、総司も連れてけば。みんなで呑んだ方が楽しいしさー」
「まあな。どうせ左之の奢りなんだしよー」
ヘラヘラとまるで他人事のように原田に詰め寄る藤堂と永倉。
原田は眉間にシワを寄せながら二人を見遣る。
「……おめえら…!!」
「ちょっと待ってよ。僕、行きたいだなんて一言も言ってないんだけど?」
「「「ええっ!!?」」」
三人の輪に割り込む格好で、沖田が溜め息混じりに予想の範疇を超えた発言をしてくる。
「え、ええーっと……総司?」
顔色を窺うように藤堂は沖田へと近付く。
「ケッ。一緒に行きたいんじゃねーのかよ」
腕組みをしながら永倉は小さく舌打ち。
「好きにやってくれ」とその場にドカッと座り込んでしまった。
疑問符ばかりが渦巻く中、原田は出来る限り穏やかな口調で沖田へ問う。
「じゃあ何でわざわざ起きてきたんだ……?島原に一緒に行きたかったからじゃないのか……?」
原田の問いに沖田は軽く首を傾げる。
だが直ぐに怪しい笑顔になり……。
「あ、一君だ」
「「「!!?」」」
「こんな時間に何をしている」
白色の布を首に巻き、落ち着いたその声音。
紛れもなくそれは……。
「さ、……斎藤」
唇を小刻みに動かしながら、原田はその人の名を呼ぶ。
「こんな時間に何をしている」
今度は聞こえなかったとは言わせないとばかりに、先程よりも強い口調で斎藤は同じ問いを原田達へと投げかける。
そして気のせいだと思いたいぐらいの形相で、沖田を除く三人を睨みつけた。
「やーっぱり、一君には適わないね。見透かされてるっていうか……監視?されてるみたいで」
余裕の笑みを浮かべる沖田。
まるでこういう結果になる事を予想していたような、そんな笑みを。
「副長が不在中の今、これぞとばかりに島原へと赴き、己の限界を顧みず酒を水のように呑み、芸子を上げてどんちゃん騒ぎ。そして泥酔した挙げ句、道端にあった地蔵を持って帰って来たり、飲み屋の暖簾を体に巻いて屯所へ戻って来たりという失態を犯し、翌日は翌日で当たり前のように二日酔いになり隊務もままならず、酒の臭いを関係のない隊士へと撒き散らす……。まあ、差し詰めそういうとこだろう」
斎藤は滑らかな口調で淡々とそう言い放つ。
図星なのか、原田達はお互い目配せした後バツが悪そうに目を伏せた。
気まずい空気が漂う中「だったらさー」と思い出したような声で沖田は口を挟む。
「総司。ちょっと黙っていてくれないか?今大事な話を--…」
「ここ(屯所)には千鶴ちゃんがいるでしょ?千鶴ちゃんに頼めばいいんだよ」
斎藤の言葉を遮って沖田が意味深な発言を被せてくる。
その発言に今の今まで座り込んでいた永倉が、シュタッと音を立てて勢いよく立ち上がった。
「そうか!その手があったか!」
「「「!??」」」