東京から1860キロ離れた南鳥島で、海底ケーブルの修理船で…どこかで誰かが支えている

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社会部デスク 高沢剛史

 どこかで、誰かを支えている人たちがいる。この瞬間も。そんな思いを強くしている。

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日本最東端の島で

太平洋の孤島・南鳥島
太平洋の孤島・南鳥島

 滑走路に向けて動き出した自衛隊機の窓から、離陸を見送る隊員たちが見えた。日本最東端の南鳥島で取材したときのことだ。東京から南東に約1860キロ離れた周囲約6キロの小島には、日本に接近する津波を監視したり、大気汚染の状況を調べたりするため、気象庁の職員や自衛隊員ら約25人が常駐している。南鳥島は広大な排他的経済水域(EEZ)の基点になっており、その中にはレアアースの鉱床も確認されている。人が住んで活動していること自体にも意義がある。まさに日本の ()() の一角を守っているのだ。

 しかし、民間機は飛んでおらず、本土から定期的に赴任する「住民」は、自衛隊機で行き来する。現地ではちょっとした病気やけがが大事になりかねない。荒波が押し寄せる海岸に立つと「絶海の孤島」という言葉しか浮かばなかった。食料品などを載せて本土から4時間かけて飛んでくる航空機の管制は、自衛隊員の任務だ。隊長は「孤島での活動は精神的な負担が大きいが、最前線にいることはやりがいを感じる」と話した。

縁の下で暮らしを支える

島を離れる飛行機を、日の丸を掲げて見送る自衛隊員ら
島を離れる飛行機を、日の丸を掲げて見送る自衛隊員ら

 多くの人の目に触れるわけではない。けれど、現場では国を支える大切な活動が行われている。南鳥島で取材したのはもう10年も前だが、荒々しい島の光景とともに、そんな思いがずっと心に刻まれていた。だから、新春の社会面で展開する連載を担当することになったとき、縁の下で暮らしを支える人たちに取材したいと思った。

 取材班の記者が現場で集めてきたエピソードは、「へえぇ」と思うものばかりだった。山口県沖の日本海に浮かぶ「 ()(つれ) 島」では、祖父から3代にわたって島民に便りを届ける郵便配達員がいた。島には細い道や階段が多く、バイクは使えない。膨らんだかばんを肩に掛け、約80人の島民に郵便を届けている。島でただ一人の配達員で、義理の母の葬儀の日も島民に手紙を届けた。嵐の日も雪の日も、一日も休まずにその営みを続けている。

 別の記者は、世界のインターネット通信を支える海底ケーブルの修理船「KDDIオーシャンリンク」の乗員に取材した。同船は昨年、フィリピン西方の海域で、地震の影響で切断された海底ケーブルを探した。その作業は気が遠くなりそうなものだった。

 現場の水深は3000メートルと深く、無人ロボット(ROV)は使えない。洋上から「探線機」と呼ばれる金属製のフックを海中に下ろし、直径2センチのケーブルをひっかけてキャッチすることにした。船の速力は時速0.5キロで、5キロにわたって海底を探っていく。1回の探査にかかる時間は12時間。8回も繰り返し、ようやく引き揚げることに成功した。

「今もどこかで」

 連載は1月3日付朝刊から計7回、社会面に掲載した。タイトルは「今もどこかで」。人知れず、みんなの暮らしを支える人たちがいることを伝えたいとの願いを込めた。

 そう。まさにこの瞬間も、現場で働いている人たちがいる。例えば、この原稿を書いているパソコンを動かす電気の一部は、厳冬期のダムを守る水力発電所の職員の手によって生み出されているし、インターネット回線は、真夜中であっても保守管理を担う通信会社の社員が支えている。南鳥島でも、気象庁や自衛隊員の人たちが自然と向き合っている。現場で働くプロフェッショナルの仕事は尊いと思う。私たちも読者の共感を呼ぶ記事を書かなくてはならない。新年にあたり、改めてそう誓った。

  連載「今もどこかで」
「今もどこかで」<1> 大動脈を守る…津軽海峡の下の力持ち
「今もどこかで」<2> 便りを守る…島1人の郵便屋さん
「今もどこかで」<3> 公衆電話を守る…災害時、声つなげたい
「今もどこかで」<4> 通信を守る…ネットの「命綱」手当て
「今もどこかで」<5> 伝統建築を守る…女性宮大工の道、挑む
「今もどこかで」<6> 食を守る…元ホストが和牛「日本一」
「今もどこかで」<7> 拳を守る…バンデージ職人15年

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 メールアドレスは、 shakai@yomiuri.com です。

プロフィル
高沢 剛史( たかさわ・つよし
 社会部次長。2003年入社。横浜支局などを経て05年に社会部。警視庁や防衛省を取材し、21年5月から社会部デスク。

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3804488 0 デスクの目~社会部 2023/02/10 15:00:00 2024/02/15 11:11:02 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/02/20230208-OYT8I50005-T.jpg?type=thumbnail

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