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子どものころに読んだ絵本と再会する

H.A.レイのしかけ絵本

 入ったことのある方はご存じかと思いますが、聖救主教会のホールの大きな本棚にはたくさん絵本が並んでいます。
 先日ふと、その棚に目をやると、とても懐かしい絵本がありました。H.A.レイの『じぶんでひらく絵本』シリーズ(文化出版局)の4冊です。40年近く前の記憶ですが、私が子どものころにとても気に入っていた絵本。幼稚園時代から小学校に上がっても読んでいたような気がします。

右開きのわかりやすいしかけは、
子どもの手でも開きやすい。


 絵柄のよさはもちろんですが、なんと言っても、色合いがとてもきれい。さらに本作には、見開きごとにシンプルな横開きの仕掛けが付いていて、絵の変化が楽しかったのです。
 絵本の役目のひとつは視覚から感性を刺激すること。原体験的な記憶として忘れずに残っていたのですから、やはり名作絵本の力はすばらしいな、と久々に現物を手にして感じ入りました。

 大人になってから読み返す絵本のおもしろさは、ディテールを味わうことにあるでしょう。
 絵をページごとにじっくり見る、色合いを楽しむ。物語を堪能し、言葉の並びのおもしろさや無駄のない文章構成に気が付く。そんな「大人だから」わかることがいっぱいあります。マニア向けですが、絵本タイトルの書き文字の妙を愛でる、というのもあります。
 『じぶんでひらく絵本』は、4冊セットの構成にも「おっ」と思わされました。子どもにとって一番身近なことがらから非日常の好奇心をくすぐることがらまで、とテーマ選びのバランスがよかったのです。

 もちろん、絵本は子どもたちに向けて描かれていますから、「子どもだから」わかること・気が付くこともいっぱいあるわけです。
 だからこそ親子で、あるいは保育者と一緒に絵本を読み、それぞれに絵本を味わう意味があります。子どもの反応を見たり、「どこがおもしろかった?」と語り合うことが最良のコミュニケーションになるのは、お互いの「視点の違い」が大きく作用しています。その「違い」が楽しいのです。

 大人の絵本の楽しみ方としては、作者に注目する読み方もあり。このH.A.レイ、人名だけでピンと来る人は少ないかもしれません。でも、「おさるのジョージ」や「ひとまねこざる」の作者だと知ると、きっと絵本の見え方が違ってきます(レイ夫婦の合作もあり)。
 子どもの視覚を考えたコントラストがはっきりした画面構成、動物の豊かな表情や動き、優し気な登場人物たち、平易だけど心に残る文章……。子どもへの視線、あるいは子どもたちに見て欲しい世界や情景などに、作品に共通したH.A.レイの想いが見えてきます。人と動物との対比もまた、この作家ならではのテーマだったと理解できました。

『たろうのおでかけ』作者の仕事

 大人の絵本の楽しみ方つながりで、もう一冊。私は『たろうのおでかけ』(福音館書店)を偏愛していました。私が読んでいた本は手元になかったので、新たに買って子どもと読んだほど好きな絵本です(そうやって手渡した本はほかにもあるのですが)。

たろうのおでかけ


 この絵本は画面の迫力がすごい。ピンクに塗られた表紙のインパクトが鮮烈でした。中面は逆に背景の色数を抑えて、たろうと友だちの動物たちの姿をわかりやすく見せています(この色合いのダイナミクスは、乳児でもきっとくぎ付けになります)。
 見開き単位で場面を展開して空間を広々と描いているのは、たろうが歩く街の大きさを表現しているかのよう。そして、ラストの背景の描き方は街の描き方とは対照的なんです。未読の方も、読んだことのある方も、ぜひ(また)読んでみてください。
 アイスクリームのおいしそうなこと……思い出すだけで笑顔になります。
 そして、この作者が堀内誠一。『ぐるんぱのようちえん』も描いているので、ファンもきっと多いはずです。

 私は堀内誠一作品と、大人になってから出会い直しています。それが創刊から現在でも使われている雑誌「POPEYE」のロゴあり、「BRUTUS」のロゴでした。ロゴだけでなく雑誌中面のデザインまで、平凡出版(現マガジンハウス)のカルチャー誌のデザインの原型を作ったのが、この「アートディレクター」としての堀内誠一だったのです。「an・an」「olive」「クロワッサン」のロゴも堀内作品。それと気づかずに、私たちは大人になっても絵本作家との接点を失っていなかったというわけです。
 さらに、小学生のころ好きだった月刊誌で、いまも発行されている「たくさんのふしぎ」も堀内のディレクションによると知って、合点がいきました。意識せずに決定的な出会いをし、私の趣味嗜好の一端を形作っていたのです。

大判で読み応えたっぷり。『雑誌づくりの決定的瞬間 堀内誠一の仕事』


 堀内誠一は、本当に洒脱でマルチな才能の持ち主。比肩する人物と言えば、私の中では(敬愛する)伊丹十三くらいしか思いあたりません。
 『たろう』も『ぐるんぱ』も、構図がダイナミックで、文字の配置にもこだわりが感じられます。そうした「画面の見せ方」は、デザイナーと絵本作家の両面をもっていた堀内だからこそでしょう。
 出版界に入る前は、10代で伊勢丹に入社して、広告やディスプレイで頭角を現します。堀内の足跡を振り返る書籍やWEB記事はいろいろありますので、気になる方は目を通されると、とても楽しいと思います(本当に圧倒されます)。

 2人の作家を例にしましたが、きっとほかにも「大人ならでは」の楽しみ方ができる絵本がまだまだあるはずです。子どもと一緒にそんな絵本を探してみるのも楽しいですね。

(文・まこと保育園 渡邉)


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